小笠原出張・・完了

2月28日、1か月半の小笠原出張が終わりました。
父島に約一か月、母島に2週間ほどの滞在でした。

母島は雰囲気も施工内容も父島とは違うものがあります。
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母島でも一番コアなルート「石門」
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保護のため観光客が入れる期間は決まっているのだけど
作業員や調査員は年がら年中入っています。おのずと道は崩れていく。
斜面をトラバース(横切る)する細い道の場所が多く
路肩が崩れて歩行路がどんどん狭くなっています。
それを・・・
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路肩に木材をひっかけることによって土留めとします。
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ここも山側の伸びてきた植物の管理が不十分で
歩行者は谷側ギリギリを歩いてしまう。
路面が見えないもんだからルートから滑り落ちる場合もありました。
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施工後。木柵土留めですが杭は使いません。
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周辺にある外来種のアカギを使って施工します。
杭を使わない場合、けっこう長い木材が必要になる場合が多いので・・
狭い道だから運搬が大変。
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そんなに重くないです。
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狭いから施工も大変。作業員もときどき谷側へ落ちていきます。
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崩れはいたるところで進行していました。
ここは昨年ならば木材一本の施工で済んでいた場所。
一年で土壌が大きく流されて施工規模が増えました。
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施工後。大きく崩れる前に施工できればもっと良かった。
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今回使った木材は外来種のアカギ。
これは生命力が非常に強く小笠原の生態系を崩してしまった木です。
まあ、持ち込んだのは人間ですけどね。
大きな傷があってもすぐに埋まってしまうほど。
切ったものを放置するとそこから枝が伸びてきます。
ロープを取り付けるために傷をつけても、2年で完全に飲み込んでしまった。
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でもこの生命力を使わない手はない。
近自然工法での資材の優先順位は「生物材料」が一番。
ようは生きている枝があれば、腐食せずに長持ちする可能性が高い。
歩道ならば巡視している人が大きく枝が広がることは防いでくれる。
生命力の強い外来種ならば、その利点を使う。
使えるものは何でも使うのが自分のやり方です。
このくらいであれば数年で枝を飲み込んでくれる可能性があり、固定力は抜群です。
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ここは踏圧による広範囲の急傾斜裸地化部。
木柵階段を考えて・・
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基礎木という発想で施工。
木を安定している場所に引っ掛けて固定し・・
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さらにその木に基礎木を固定し・・
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きっちりと引っかかるように。
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テンションを下へとつなげるように・・
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これで下から上までテンションがかかって基礎が固定された状態です。
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それに横木をつないでいく。
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土壌は掘削せずに、隙間には石や土を詰めて堆積させる。
自然界の成り立ちは「何かに引っかかって堆積していく」場合が多くあります。
それを再現しているつもりです。
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上から見ると・・
一般的には杭を使った木柵階段を真っすぐにつけることが多いでしょうか。
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ジグを切ることで段差も低くなり、疲れや不安も少なくなります。
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木柵に詰めた土壌が横から流れてしまう心配もありません。
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そして母島の作業で一番大変だった場所。
施工は簡単です。だけど施工できるかどうかの判断が大変だった。
石門のこの場所には世界中でこの場所にしかいない昆虫類がいるそうです。
専門家の一部には「人の手を加えるなんてもってのほか」という意見があったそうです。
整備することで、近くからでも昆虫の天敵が持ち込まれるのを防ぎたいとのこと。
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だけどこの場所も路肩が崩れやすく
歩いていて滑り落ちる人がいるほど不安定な歩行路です。
調査員や作業員は常に歩き、期間中は観光客も入る場所です。
数年後には道が崩れて昆虫の生息環境がなくなるのは見えています。
観光客も調査員も作業員も入山禁止にするならば大丈夫でしょうが
そうならないのであれば最低限の保護は絶対に必要です。
ちなみにここは調査、作業員は観光客より多く、スパイク足袋を履くため
踏圧侵食の頻度が多いように感じます。
何もしないほうが良いとは思えません。
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現場に来てからも最後まで議論がありましたが、
最後は地元の変化を一番知っているガイドさんの判断に任されました。
「路肩が崩れて昆虫の住処がなくなるよりは、路肩保護をする」という判断。
真っ当な判断だと思います。
こちらもそれに答えてできるだけ掘削はせず、資材を持ち込まず、の施工に徹します。
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持ち込む石材はすぐ近くから、石についているものを確認し・・
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土壌をブラシで落としてから使います。
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近自然工法で自然を見る時にはいつも「個」にとらわれてはいけない、と意識しています。
自然は「個」が複雑に組み合わさってバランスが取れています。
「個」は「全体」の一部なんです。一部だけを守ると全体が崩れることが多くあります。
自分は「木を見て森を見ず」にならぬよう心がけています。
施工後、見た目の変化も少なく、路肩は崩れにくくなりました。
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母島ではこんな施工場所もありました。ほんの数百mの遊歩道。
終点には「忠魂碑」があり、年に一度は遺族の方々が参られるそうです。
木道の腐食が大きくなり、交換したいのだけど同じものだと予算がかなり必要だとか。
小笠原は木材は内地から船で運搬、シロアリからの保護も必要なんです。
ちょっとした施工でもすごくお金がかかる。
相談されたとき、近くには海岸があり石材は豊富。
「木道でなくても良ければ人件費だけでイケるよ」なんて言ったら
じゃあやりましょう。という感じに。
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木道を取り外して・・
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両脇に溝を掘り・・
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海岸からの大きめな石を運び、固定し・・
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石畳の道へ。
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簡単そうだけど、実際はかなりきつい労働でした。
ここでも本当は、両脇は石材でなくて母島の自生木材を使う予定でしたが
シロアリが入る可能性があるとかで、急きょ木材は使ってはならぬ、という判断が。
オイオイ全部石材はつらいぜよ。と思いつつも瞬時に施工イメージは完成。
何よりも今年は頼りになる作業員がいてくれた。
この人達がいれば大丈夫。何とかなる。
何せ、作業の半分以上は海岸からの石材の運搬ですから・・
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海の石は重いんだよな・・
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重い荷を担ぐと階段は少しの段差がものすごくつらい。
段差を見て立ち止まる高齢者の気持ちがわかるね。
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最低40㎏。重い時には80㎏ほどを何往復も・・
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一輪車でも運べるけれど、これも重いと一人では動かせない。
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大石、平たい石、砂利、特に砂利は重いんです。
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根性と力ある島っ子と役場の若手が大活躍。
彼の昼飯のご飯の量に驚いた。タッパーに二合半。全部食べていた。
彼女いないだろうと聞いたらいないと言っていた。
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いつもは施工したことがわからないようにするけれど
ここでは意識を変えて、できるだけ平らにしてくれ、と指示。
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なかなか自然石相手では平坦は難しい。
そしてここでも部分だけ見るのではなく、全体を見て平坦を作ること。
難しいと言いながらも真剣に施工してくれました。
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ボロボロだった木道が・・
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石畳の道へ。
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少々の段差がある場所も・・
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道なりに、石段を設置。
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周囲には竹もあり、石畳の雰囲気は悪くない。
材料費はゼロ。
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ほんとうは母島の人たちと施工したかった。
少しだけそのチャンスがあったのだけど、難しかったようです。
業者が作った道よりも、自分が手掛けた道のほうが愛着がわきます。
地元の自然を知り、人任せにしないこと。
自然保護と地域の文化は切り離せないと思います。
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母島は父島と違って、「この島はこうあるべきだ」と
真剣に考える地元の人が目立っていません。
ほんとうは思っているのだけれど優しい性格の人が多くて
いろいろな人との対立をしたくないようにも感じました。

どの地域でもそうですが、自分は行政の区割りされた管理が正しいとは思えません。
登山者にとってはルートの管理者なんてどうでもいい話です。
ノスリにとってもカラスバトにとってもマイマイにとっても
この線から管理者が変わり管理方法が変わるなんて気にもしてないでしょう。

自然保護を考える時には部分の変化を観察し、大きな変化を想像し、
この地域の自然はどうあるべきかを考える。そしてもちろん人との関係も重要です。
地域の変化と歴史の変化、人との関係を一番知っているのは専門家でも行政でもないんです。
地元の人なんです。
地元の人が地域の自然をもっと理解し、携わっていける保護にしない限り
あるべき自然保護にはならないような気がしてます。

母島では毎日そんなんことを思いながら過ごしていました。
だけど施工は楽しかった。
とくに石畳作業は力業の物作り。
頼りになる相方がいるとこちらも力が出る。
大雪山にも来てくれないかね・・。

今回の小笠原作業で常に思っていたこと。
やはり一番必要なのは技術ではないということ。
地域を思う気持ちや自然を観る感性のほうがどう考えても重要です。
技術はそのあとですね。
再確認した今回の出張でした。